『家族』
オフェーリアが戻ってきたゲルは照明が落とされて薄暗く、唯一の灯りは寝台のある場所から離れた入り口近くにあった。
「あら〜
今夜は添い寝してるの?」
マティアスの為に用意した大型の寝台に、2人仲良く横たわっている。
マティアスは横臥しており毛布を【ぼくちゃん】に着せかけてやっていた。
それは微笑ましい親子?の就寝の姿で、オフェーリアは思わず笑みを浮かべてしまう。
「……私も一緒に寝るべきなのかしら」
幸か不幸か寝台にはまだ余裕がある。
今朝、【ぼくちゃん】は上機嫌だ。
何しろ目覚めると左右にマティアスとオフェーリアがいて、マティアスなどはふたりを抱きしめるようにして眠っていたのだ。
「【ぼくちゃん】お手伝いありがとう」
オフェーリアが朝食用のカトラリーを調理台に出すと、それを器用に握ってテーブルに向かう。
それを受け取って並べるのはマティアスの仕事だ。
「ん?
おまえもやってみるか?」
くりくりの目で興味深そうに見つめているのに気づいたマティアスは立ち上がって、オフェーリアの席に向かった。
そして【ぼくちゃん】の後ろから教えながらいっしょに置いていく。
【ぼくちゃん】はとても嬉しそうだ。
「次はコップを置いてもらおうかな」
オフェーリアがトレイにコップをのせて近づいてくる。
「キュー」
「ママのお手伝い、偉いぞ」とマティアス。
「キュ?」
「ちゃんとパパに教えてもらってね」と合いの手を入れるように返すオフェーリア。
「キュキュ?」
マティアスがオフェーリアを指して「“ママ”な」と、そして自分を指して「“パパ”だ」と言う。
「キュン」
意味がよくわからないなりに【ぼくちゃん】は頷いた。
オフェーリアもニコニコしている。
実はこれは婚姻前からわかっていたことなのだが、各々の種族の生物的な相性によりオフェーリアとマティアスの間に子ができる可能性はほとんどない。
なので今はもう【ぼくちゃん】がふたりの子といってもおかしくない存在なのだ。




