『引っ越し』
商業ギルドの一室。
オフェーリアの眼前には、手足を拘束され自警団の兵に監視された男がいた。
「改めて、初めまして」
飛びかかれないように距離をとって、オフェーリアから話しかけてみた。
「自警団の方からお話は聞きました。
大変不幸な事でしたが、私の家は救護所ではないし、結界が張ってあるので声も聞こえないのです。
唯一、結界への干渉は“感じられ”ますが、それは落ち葉が触れても同じことです」
「そうか、そもそも初めから俺は無駄な事をしていたんだな。
森の魔女殿、さっきは突然襲いかかって申し訳なかった。
この通りだ」
男は不自由な状態で、身体を曲げ頭を下げた。
「あなたが納得してくださるのなら、私はそれでいいです。
しかし私の家が休憩所や救護所のように言われているのは心外ですね。
この事については少し考えさせてもらいます」
「だが俺は!」
「私は忙しいし、あなたにもやることがあるのでしょう?
私の望みは変に八つ当たりして、私をつけ狙うようなことがなければそれでいいです。
納得できませんか?」
見かけは少女だが、おそらく自分よりもずっと年上だろう森の魔女に言い聞かされてのちに頭を下げる。
この頃には男は、もうとっくに頭は冷えていて、反対に自分がしでかした事に冷や汗が流れる。
「魔女様がいいと言っても、この村としては無罪放免ってわけにはいかないからな」
「お兄様を亡くされて、それが山小屋の主のせいだと思っていたのですもの……
誤解がとければそれでいいわ」
村の人間には甘いと思われるだろう。
だがオフェーリアとしては要らぬ軋轢を生みたくないのだ。
それにもう、ウッドハウスの移動を決意している。
決心してしまえば行動は早い。
オフェーリアはウッドハウスに戻ると、建物を異空間収納に収めて、転移でラバナラに向かった。
ここで準備を整えて、次の居住地に向かう事にする。
何しろ今は冬なのだ。
準備万端整えておきたい。
「ジル、久しぶりに買い物に付き合ってくれない?」
もうとっくに40才を過ぎ、すっかり老けたジルだったが往年の美貌の影は残している。
最近は体調が良くないと聞いていたので心配していたのだが、今日はたまたま実家に来ていたようだ。
「まあ!フェリア様のお誘いなんて何年ぶりかしら。
支度をして参りますので少々お待ち下さい」
彼女と一緒なら馬車で動く事になるだろうが、厚着は欠かせない。
それでも友とのショッピングに胸躍らせた。