『【ぼくちゃん】のプリン』
「【ぼくちゃん】の好物、たくさん作ったよ」
昼寝から醒めた【ぼくちゃん】の前にはこげ茶のカラメルソースがかかったプリンが差し出されていた。
「でも夕食にはまだ早いからね。
一緒におやつのプリンを食べよ?」
甘い匂いに【ぼくちゃん】のテンションは爆上げである。
ブランチの時のフレンチトーストといい、玉子と牛乳と砂糖は【ぼくちゃん】の大好物なのだ。
「キュウ〜ン」
手にした匙をプリンに入れる。
そっと掬うと食いつき気味に顔を寄せ、大きく口を開けた。
「ンン〜」
目を細め、鼻の穴をふくらませて吐息をつく。
嚥下するのも勿体なさそうに、それでも次の一口のために飲み下した。
ふた匙目は先ほどより大きく掬ってさらに長く味わった。
この『プリン』という菓子は【ぼくちゃん】の身も心も蕩してしまった危険この上ないものだ。
その甘さは食するものをダメにしてしまう、魔性の菓子だった。
プリンを3つも食べた【ぼくちゃん】は、再び寝台の上で丸まって寝ている。
オフェーリアは新たに出した書物机を前にしてノートを広げていた。
そこには【アムリタ】の調薬レシピが書かれていて、その素材個々の情報が書き込まれている。
その中で【ツブネラアロン】の項だけ空白のままだ。
この素材は本当に謎で、前回花粉を手に入れられたのはほんの偶然だったことを思い出していた。
「あの商人は北国のものだって言っていたわね」
氷の花なのだと言っていたが、オフェーリアは花粉だけを入手していて、その姿も図鑑にのっている絵を見た事があるのみ。
今日までの長い年月、なぜ手に入れようとしなかったかと反省しきりだった。