『涙』
商人Aとの連絡は冒険者ギルドで取ることにして、オフェーリアは今日はここで野営をすること、そしてこの後は身を清めてひと休みすることを伝えた。
そう言われると男たちは引くしかない。
ちょうど移動のための時刻となり、再会を約束して別れた。
「【ぼくちゃん】!
昨夜はごめんね!さびしくなかった?」
転移してやってきたのは縦穴の底の【ぼくちゃん】のゲルの中だ。
「〜〜!!」
目の前に現れたオフェーリアを見た瞬間、ピスピスと鼻を鳴らした【ぼくちゃん】は、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「昨夜戻るって約束してたのにごめんね。
人目があるところで転移出来なくて……」
ギュッと抱きしめて背中をヨシヨシすると【ぼくちゃん】も身体を押しつけてきた。
「【ぼくちゃん】何かあったか?」
野太い声がして、見知った兵士が顔を覗かせたが、オフェーリアを見てホッとする。
実は昨夜姿を見せなかったことで【ぼくちゃん】は不安定になりかなり長い間泣いていた。
今朝は落ち着いて見えたがまた泣き始めたのかとゲルの中を見てみると、オフェーリアの姿がある。
「フェリア様、お戻りでしたか」
入り口の布をかき分けて、大きな身体を屈めてひとりの兵士が入ってきた。
主にダグルと共に【ぼくちゃん】の世話をしている彼はミセルと言う。
「ええ、昨日はトラブルがあってね、町に入るのを止められているのよ」
オフェーリアも人伝に聞いただけなのではっきりしないが、巻き込まれるのは御免だ。
「一日二日で何とかなるとは思えないわね。
先にどこか入国したことのある国の王都にでも行って、冒険者ギルドで情報を集めた方がいいんじゃないかとも思っているの」
オフェーリアはヨシヨシしながら吐息を吐いた。