『思い出』
「中は空間拡張がしてあるの。
それなりに快適よ?」
オフェーリア以外にとってはとんでもない代物である。
「こちらは一般に販売は……」
「う〜ん、それなりに魔力が必要なので、人族だけではちょーっと辛いかな?
魔石で賄うとしても、それなりのものがあっという間に消費すると思う」
元々このゲルはオフェーリアのために作られた一品ものであった。今は大型も含むいくつかを展開しているが、一般に販売目的のものではない。
何しろカスタム化されたゲルは人族の平均的な家より遥かに利便性が高く出来ていた。
「確か、ずいぶん前になるけど、当時私が経営していた商会で、これの廉価版として【魔導テント】を売っていた事があったはずだけど……」
「それって冒険者向けのテントですよね?!
一度中を見せてもらった事があります。
特に女性の冒険者に人気でした!」
どうやら使用者限定の付与をしていないもののようだ。
あの商会から手を引く頃には付与することも無くなっていたので、その頃販売したものかもしれない。
「あれもそれなりの容量のアイテムバッグがないと収納できないし、上級冒険者じゃないと持てなかったわね。
うふふ、懐かしいわ」
交流のあった人々の顔が思い出される。
魔法族の都を出て最初の婚約破棄の後、市井に出て知り合った者たちのほとんどはもうこの世にいない。
最初は彼、彼女らの次代とも交流があったが、やはり何かが違っていて疎遠になった。
弟子や弟分といった連中も全員鬼籍に入ってしまい今はもう、この中大陸で交流のある者はほとんどいない。
「さて、私の自慢の茶葉なの。
滅多にご馳走しないんだから味わってね?」
紅茶に添えた焼き菓子はオフェーリアお手製のフィナンシェだ。