『野営?』
「実は私、もうずいぶんと長い間国から出てなくて、中大陸に来たのも久しぶりなの。
身分証明書であるギルドカードはかなり古いものなので、ちゃんと認証してもらえるかどうか……
別に国発行の証明書も持っているけど、あまり使いたくないのよね」
少々ワケありなのだと仄めかしたオフェーリアに、職員は胡乱げだ。
「なので出来ればこの近くで野営して待ちたいのだけど。
もちろん証明書は見せるわよ」
どちらかと言えば、転移するために早くひとりになりたいのだが。
「厳密に言えば、門のこちら側ならその必要はありません。
チェックが必要なのは村に行く人たちです。
ただ、もしも気が向いて憲兵に提示すれば向こうが安心するかと」
一晩や二晩ならこのまま突っ切るつもりだが、長引くなら考慮すべきだろう。
オフェーリアは小さく頷いておいた。
「でもどうするおつもりですか?」
「私は携帯用のゲルを持っているから野営に関しては問題ないの。
あまり近くは目立つので、少し森の中に入ったほうがいいかしらね」
「ゲル?」
聞いたことのない名なのだろう。
商人たちも訝しげだ。
「テントのようなものよ。
ただテントよりもずっと快適だけどね。
そうね……
使用者設定があるから中を見せてあげられないけど、お茶でもどうかしら?」
オフェーリアは馬車の前から離れ、門前の広場から街道を横切って適当な空き地にゲルを出した。
そしてテーブルと椅子を人数分出して紅茶の用意をする。