『門前の乗り合い馬車』
乗り合い馬車はそれ専用の検問の列に並んでいて、こちらも動きが止まっているようだ。
オフェーリアと、先ほど話をしていた2人組が御者の案内で停車しているところにやってくると、見慣れぬ男がひとり待っていた。
「こいつは怪しいものじゃありません。
中の停留所から呼び出した、うちの職員です」
ペコリと頭を下げて挨拶した男は後から現れた下男たちに馬の世話を指図している。
「どうやら町の中で騒動があって、新たに人を入れるのを止めておるようです」
トラブルは盗賊絡みか、どうやら一時的にも人の流入を避けたいようだ。
「誠に申し訳ございません。
簡易なものになりますが、ただいま夕食を用意しておりますので少しお待ち下さい」
少々お高い運賃だったが不測の事態の場合のサービスは満足できるものがある。
オフェーリアは御者に導かれて馬車の中に入り、この旅で初めて人前でフードを取った。
「エルフ……」
「エルフだ」
2人組が驚いてしみじみオフェーリアを見つめている。
「エルフは初めてかな?
ここの都市ならそれなりに居そうだけど」
オフェーリアはローブ自体を脱いで、特徴的な耳とともに長い金髪をあらわにした。
「ここの大学院に用があって来たんだけど、初っ端からなんだかな〜」
「そうなんですか?」
「ちょっと、ある素材について調べに来たんよ。
まあ、ここがダメでもまだ手はあるけどね」
「因みにもし差し支えなければ。我々も一応商人ですので」
「【ツブネラアロン】って知ってるかしら」
ふたりは顔を見合わせた。
そのうちひとりは考えながらブツブツ言っている。
「……確か氷の花がそんな名だったような」
「んっ?知ってるの?」
「知ってるってほどじゃないけれど。
取り扱ったことはおろか、見たこともないですが、以前チラッとそんなことを聞いた事があります」
「是非是非、その話を詳しく!」