『門前』
オフェーリアは今、中大陸一の学研都市である、タクラナラ聖帝国の【ビドー】に入るため、都市の周りをぐるりと囲んだ防壁の入場門の前で順番を待っていた。
一応ここまでは足取りを残すため、近隣の中核都市から乗り合い馬車に乗ってやってきた。
今回は目立ったトラブルもなく無事到着したのだが、今現在オフェーリアが並んでいる前方で何かあったのかしばらく列が進んでいない。
一緒の馬車に乗ってきた乗客たちは半ば諦めて今夜の寝床の話をしていた。
「もう夕刻だ。
これでは時間までに町の中に入れないぞ」
オフェーリアは様子を探るように聞き耳を立てている。
「じゃあ今夜は門の前で野宿か。
食料も持ってないし困ったもんだな」
どうやらそういう状況のようだ。
こういうことは以前にも体験したことがあったので、オフェーリアはその場に座り込んだ。
「さて、どうしようか。
いくらなんでもここで身一つの野宿は辛いものがあるよね」
そう、中大陸の北部に位置するここは真夏以外は日が暮れると気温が下がる。
さすがに真冬ではないので凍死することはないが、かなり寒い思いをするだろう。
もちろんオフェーリアはゲルを持っているし、冒険者がよく持っているテントに偽装した魔導具も持っている。
しかしかなりの人数がいるここで自分だけテントを出すのは……
「お嬢さん、お嬢さん」
考え込んでいたオフェーリアを呼ぶ声がする。
顔を上げると、そこには乗り合い馬車の御者が立っている。
馬車とはこの門に着いた時点で別れて、あちらは専用の検問に向かったはずだが。
「お嬢さん、うちはこういう場合、その時のお客には馬車で野営してもらってるんだ。
さあ、そこの兄さんたちもこっちに来てくれ」
どうやら凍えずに済んだようだ。




