『【ぼくちゃん】3』
魔獣には知性のあるものとないものがいる。
ダンジョン産の魔獣はほとんどが知性のないものだが、ごくたまに【ぼくちゃん】のような個体が現れる事がある。
ただ【ぼくちゃん】はせいぜい幼児のレベルの知性であって、その行動も比例するものだった。
そんな【ぼくちゃん】の行動の中で今までも微笑ましく思われていたのは、マティアスに対する“憧れ”だ。
小さな男の子が英雄に憧れるように、【ぼくちゃん】にとってマティアスは特別な存在だった。
「おう、だいぶ元気になったな。
うん、抱きつく力も戻ってきてるな。
俺は先に帰るが、本島で待ってるぞ」
再び頭を撫でて微笑んだ。
そんな彼の背中越しに、いささか強張った表情の兵士たちが並んでいる。
「キュキュー、キュ」
冒険者に襲われた【ぼくちゃん】が同じ背格好の男に対して恐怖を抱くのではないかと危惧されていた。
なので意識を取り戻した【ぼくちゃん】と初めて対面した今、ダグルたちはその様子を見守っていたのだ。
「キュ、キュキュー」
マティアスの抱擁を解いて寝台から飛び降りた【ぼくちゃん】はダグルたちの元に行こうとして、そこで動けなくなってしまった。
「【ぼくちゃん】!!」
「そんなに急に動いたらダメだよ〜」
オフェーリアが抱き上げようとする前にダグルが動いた。
彼が素早く動いて抱き上げると【ぼくちゃん】が嬉しそうに抱きついてくる。
「【ぼくちゃん】よかった、よかったなぁ」
ダグルだけではなく他の兵士たちも涙ぐんでいる。
いつしか【ぼくちゃん】はこのダンジョン区域に駐屯する兵士たちの、かけがえのない仲間だったのだ。