『【ぼくちゃん】2』
「【ぼくちゃん】!!」
立ち上がった際に椅子が倒れたが気にせずに駆け寄ったオフェーリアは、片手で身体を起こそうとしている【ぼくちゃん】を抱きしめた。
「【ぼくちゃん】【ぼくちゃん】【ぼくちゃん】!
もう大丈夫よ。
もう少し元気になったらすぐに治してあげるからね!」
「クウゥ……」
【ぼくちゃん】の眦に涙が浮かんだ。
「キュィィー」
泣き疲れて眠ってしまった【ぼくちゃん】をベッドに戻して、オフェーリアは魔導コンロを出して粥の用意を始める。
彼はお腹が減っているはずなのに、取り出したクッキーに目もくれずにぐずっていた。
傷は完全に治っているはずなのだが、おそらく幻肢痛を感じているのだろう。今は無い左腕を痛がっている。
「……もうダンジョンは無理かしら」
ミルク粥をかき混ぜながらオフェーリアは独り言ちた。
「キュ?」
やはり何というか【ぼくちゃん】はパン粥の匂いに反応した。
今まで嗅いだことのないいい匂いに一気に覚醒したのだ。
「【ぼくちゃん】起きたの?
今作ってるからもう少し待ってね」
粥が焦げないようにヘラでかき混ぜていたオフェーリアは【ぼくちゃん】を見、そして数人の気配を感じて出入り口に顔を向けた。
「何かいい匂いがしてるなぁ」
そう言って入ってきたのはマティアスと数人の兵士たちだ。
その中にはあの凶行を発見したダグルもいる。
「っ!」
実はオフェーリアはある案件に対して非常に危惧していた。
それは時間をかけて解決していこうと思っていたのだが、突然やってきた。
「マティアス、どうしたの?」
横目で【ぼくちゃん】を見ながらその様子を観察する。
そう、危惧していたのは【ぼくちゃん】に対して凶行に及んだ連中と同性である兵士たちに恐怖を感じないか、ということだ。
「うん?
そろそろ出立するので顔を見にきたんだ。
【ぼくちゃん】目が覚めたんだな」
「よかった、よかった」と笑顔を浮かべ【ぼくちゃん】の元にやってきたマティアスが頭を撫でると。
グルグルと喉を鳴らして【ぼくちゃん】は抱きついた。




