『目覚め』
「【ぼくちゃん】に変わりはなくて?」
縦穴の中に設えられたゲル郡の中のひとつ。
簡易寝台に寝かされた【ぼくちゃん】が眠っていた。
「まだ一度も目を覚ましません。
でも、水やポーションは受け入れてくれております」
「そう、よかったわ」
【ぼくちゃん】の身体にかけられた布を取り払い、まずは残された右手の爪を見た。
そして瞼の裏の充血具合を見る。
「どうですか?」
「ん〜
やっぱりまだ早いわね。
もう少し動かせないかな」
貧血の度合いは高い。
「増血剤だけでは中々増えないのよね。
せめて意識が戻って、栄養のあるものを食べられるようになるといいんだけどね」
兵士は先ほど、王が本島に戻ると聞いたばかりだ。なのでてっきり妃であるフェリアも一緒に戻ると思っていたのだが、どうやら違うようだ。
【ぼくちゃん】が眠るゲルに机と椅子を持ち込み、オフェーリアは本のページを捲っていた。
その手元にはいくつかの素材があって、調薬のためのレシピを確かめているようだ。
「ダメね。
こんな時に限って素材が足らないなんて。
都に行ったら売ってるかしら……」
以前このポーションを調薬したのはいつのことだっただろうか。
滅多に使わないのでもう長いこと切らしたままだったポーション、欠損部位を再生させる特別なポーション【アムリタ】だ。
「……キュ」
「ん?【ぼくちゃん】?」
「キュウゥン」
大きく目を見開いて、そして飛び退ろうとして崩れ落ちた。
片手では身体を支えられず、全身に力が入らなくて【ぼくちゃん】は情けなそうに鳴いた。
「クウゥ……」




