『異常』
ようやくオフェーリアが動く。
その報せを受けた兵士たちは喜びに湧いた。
特に最前線、幾度となく対象の冒険者らに突撃をかけられていた兵士たちはもう手加減せずに済むことに心底喜んでいた。
「おい、何だかおかしくないか?」
「おかしいって、この階層に来てからおかしいことばかりだろう!」
ここ第6階層では【ぼくちゃん】に対して凶刃を振るった冒険者パーティーが仲間割れ寸前だった。
今も苛立ちが先に立って、重要な事を言った男に食ってかかる者がいる。
「やめろ!
そんな事を言っている暇があるのなら、水を汲んでこい」
ここでは食糧は魔獣の肉があるので何とかなるが、水はそういうわけにはいかない。
なるべく水場に近い場所にねぐらを作って過ごしていた。
「なあ、いつになったらここから出れるんだ?」
「どうしてあいつら、あんなしゃかりきになって向かって来るんだ?
ただの魔獣を一匹殺っただけだろう?」
「あいつらにとってはただの魔獣じゃないんだろう。
ただの魔獣にこんなのを着けないだろうし」
当初からひとり冷めている男が布袋に目をやった。
そこには血に塗れた軽鎧と魔獣の腕が1本入れられている。
木の葉がざわめき木々が鳴動していた。
唯人である冒険者たちは感じられないが殺気を孕んだ濃い魔力があたりに満ちていく。
そして普段ではあり得ない魔獣の咆哮が聞こえてきた。
「な、何だ?何が起きてる?」
水汲みに行っていた男が慌てて駆け戻ってくる。
その手にもう水桶はない。




