『ダグル』
「楽にしてちょうだい」
飛竜隊中堅兵のダグルは目撃した事すべてを報告するために王と王妃の御前に呼び出されていた。
「はっ」
勧められた床几に腰を下ろすとゲルの中にいた従者たちが外に出ていく。
そして入り口が閉じられた。
「まずは、【ぼくちゃん】を救ってくれてありがとう。
聞くところによると駆けつけたあなたがすぐにポーションを使ってくれたそうね。
それがなければ【ぼくちゃん】の命は助からなかったわ。
本当にありがとう」
目を潤ませた王妃の様子にたじろいだダグルだったが、実は彼も【ぼくちゃん】に助けられたことがあるのだ。
彼を助けられて本当によかったと心から思っているのだが、ひとつ後悔もある。
「しかし……俺は賊を取り逃しました」
「そりゃあ、あなたひとりしかいなかったのだもの。【ぼくちゃん】の命を優先してくれて嬉しかったわ」
わずかに目を潤ませたフェリアが唇を引き結ぶ。
そして頭を上げ、まっすぐダグルを見た。
「では最初から話してちょうだい」
まず、ダグルがこの事件に行きあたったのはまったくの偶然だった。
彼は不定期に行う見回りのおり、現場を望む丘の上から街道から少し外れた場所に座り込む一行を見つけた。
「また迷子か?
まあ、俺も人のことは言えないがな」
目的地を彼らに定め、丘を駆け降りている最中に視界の隅に捉えたのは見慣れた獣の姿だ。
「ああ、あいつが来てくれたのか」
思えば不思議な魔獣だ。
最初は飢えて動けなくなっていたところを王妃様に助けられたのだと言う。
そして王妃様がダンジョンに来られた折々に姿を現し“餌付け”されていったようだ。
「俺たちを助けてくれたあいつが、
ん?!何だ?」
遠目で細かいことはわからないが、水筒を渡していたように見えた【ぼくちゃん】が悲鳴をあげて倒れ伏すのが見えた。
【ぼくちゃん】!!」
ダグルは丘を飛ぶように駆け降りていった。




