『治療』
それをかけた途端、身体に刻まれた袈裟がけの傷は見る見る間に消えていった。
「これで少しは安心ね。
皆がずっとポーションをかけ続けてくれたので、何とかここまで保っていたようよ。
どうもありがとう」
【ぼくちゃん】の身体は特殊で、本来あるはずの位置に重要な内臓が配置されていない。
そのことがこの度は直接、心臓や太い血管を切断されずに済んだようである。
「【ぼくちゃん】、【ぼくちゃん】私の声が聞こえる?
もし聞こえるなら瞼を動かせる?」
今までピクリともしなかった瞼が微妙に震えている。
「【ぼくちゃん】これから身体を少し起こすわ。
そして口許に瓶を持っていくから、その中身を飲んで欲しいの。
ゆっくりでいいの。
さあ、飲んで」
ひとりの兵士が抱くようにして身体を起こした。
そしてオフェーリアがポーション瓶を口に近づけると、その乾いてひび割れた唇が薄らと開いてポーションを受け入れていく。
「これくらい酷い傷の場合、患部にかけるだけでなく服用することも大事なの。
でも意識がない場合は気をつけて。
肺の方に誤飲することがあるから。
それと腕の切断部だけど、ポーションをかけることによって止血ができたのはとても良かったわ。
化膿するのも防げたしね」
オフェーリアの説明を兵士たちが頷きながら聞いている。
この場で即席の講義が始まったようだ。
「今、一番問題なのは大量の血が失われた事。
なので増血剤を飲ませたいのだけど、水薬ならともかく丸薬はそのままでは無理でしょ。
その場合は砕いて、水に溶かして飲ませるの」
注ぎ口のついた乳鉢に丸薬を一個入れ、それを慎重に砕いていく。
完全に粉になったところで水を足してなじませていった。