『凶刃』
「一体何があったの?」
とてもではないが、ダンジョン縦穴の中にいるような衣装ではない。
柔らかなアラクネ絹の嫋やかな、身体に沿ったデザインのドレスのまま現れたオフェーリアのその姿はまさしく貴婦人……王の妃だった。
「フェリア様」
突然現れたオフェーリアにびっくりしながらもその御前に進み出たのは、前飛竜隊副隊長現在はこのダンジョン村の責任者である男だ。
「【ぼくちゃん】が重体だと聞いたわ。
彼はどこ?」
「とても動かせる状態ではなく、まだ中にいます」
「どこなの?」
「4階層の入り口に近い街道沿いです。
彼が」
まだ話の途中だったがオフェーリアは再び転移した。その行き先は階段を降りた安全地帯だ。
そのまま【飛行】で進んでいくと人が集まっているところに着いた。
「【ぼくちゃん】はここなの?」
突然現れた王妃にびっくりしながらも彼らは道を開ける。
するとその先の草むらには兵士のマントの上に横たわった【ぼくちゃん】がいた。
「ああ……なんてこと」
左腕は肩から切断され、さらに袈裟斬りされた上半身の傷がまだ塞がっていない。
定期的にポーションをかけているようだが、命を留めるのが精一杯で治癒が進んでいないようだ。
だが兵士たちが、今まで助けられた冒険者たちが持ち寄ったポーションの数はかなりのもので、その数は山になった空瓶で見てとれる。
オフェーリアはドレスが汚れるのも気にせず、すぐに傍らに膝をついた。
「【ぼくちゃん】よく頑張ったわね。
すぐに治してあげるからね」
そう言って異空間収納から取り出したのは上級ポーションだ。