『アクシデント』
ダンジョンとは来訪者にその恵みを等しく与える、所謂天からの恩寵である。
このダンジョンがある土地には大規模な都市が出来、ダンジョンから産出されるものの取り引きで潤っていく。
ほぼ定住する冒険者も現れ、彼彼女らの生活を支えるための産業も増えていき、また町は広がっていく。
竜人国のこの島に出来たこのダンジョンは、彼らに大きな富を齎そうとしていた。
「この半年ほどでびっくりするほど変わったね」
ふたりは今、飛竜に乗って空中に滞空している。
「まだまだ整備は続いているし、完全に開放したわけじゃないんだがな」
「まあそれは……冒険者に探索をさせて、兵士の負担を減らすのは大切なことだよ」
それはどこのダンジョンでもやっていることだ。
最深部まで探索済みのダンジョン以外では、新しい階層が攻略されるたびにその冒険者に名誉と賞金が与えられる。
しかしその代わりにトラブルも増えていた。
その報せは突然だった。
オフェーリアとマティアスが本島の宮殿で執務していたときにダンジョン島から緊急の使者が訪れたのだ。
何事かと駆けつけたオフェーリアが耳にしたのは、俄には信じられないものだった。
「え?【ぼくちゃん】が?」
「瀕死の重症で、我々もできるだけの事はしておりますが……」
次の瞬間、その場からオフェーリアの姿は消え失せた。
彼女が【転移】できる事を知っているのは限られた者たちだけで秘匿されていた事なのだが今は構っていられない。