『瞬殺』
再びの衝撃のあと静かになる。
マティアスは一応用心のため大剣を鞘から抜き、オフェーリアを後ろに庇いながらゲルの向こう側に近づいた。
「ふ〜ん……これは虎かな?」
今“それ”は蹲って、その場に小山になっていたコボルトの骸を貪り食っている。
その大きさはゲルをはるかに上まわり、オフェーリアなどは完全に見上げることになる。
「エペランドタイガーって言ったかな。
ちょっと記憶が確かじゃないけど、かなり珍しい魔獣だよ。
……こんな浅層で出てくる魔獣じゃないよ」
上級冒険者ならともかく、それ以下ならイチコロだろう。
どうやら夜行性のようなので、寝込みを襲われたら全滅もあり得る。
「これは結界石の貸し出しも考えなくてはダメだね。
廉価版のを考えてみる」
何もかもオフェーリア任せでマティアスは忸怩たる思いだ。
そんな思いを見越したように。
「ダンジョン公開は私が言い出したようなもんだし、気にしないで。
……マティアス、私はあなたの役に立ちたいの」
またほんわりした雰囲気になりかけたが、食事を小休止した虎がまた結界に激突した。
「おじゃま虫ね〜
見逃してあげようかと思ったけど……いっぺん死んでみる?」
爽やかな笑顔で言った瞬間、エペランドタイガーの巨大な体躯が傾ぎ、倒れ伏した。
「一応【血抜き】で処分しました。
多分1日もすれば次のが発生すると思うけど、これに関しては皆に徹底しておかないと」
オフェーリアは結界を開けて回収に向かった。
「そう言えば預かっているアレ、人目に触れても大丈夫なのかな?
ドラゴンと竜人の関係ってどうなの?」
もし神にも等しい存在なら永久に異空間収納の肥やしか、都で取り引きするかだ。
「問題ないな。
去年だったか、我が国出身の冒険者パーティが中大陸でドラゴンを倒したと騒ぎになっていた。
アレは信仰対象というより災害だな」
どうやらドラゴン肉も食せるようだ。




