『助け』
その魔獣からは敵意などは感じられなかった。
……見つめ合うこと暫し。
不意に魔獣が踵を返し、ゆっくりと歩き始めた。
兵たちはそのまま魔獣を見送ったのだが、しばらく歩みを進めていた魔獣が戻ってきた。
そしてまた、今度は振り返り振り返りしながら歩いていく。
さすがに兵士たちも魔獣に何か意図があるのではないかと思い始めた。
「なあ、あれってもしかして着いてこいって言ってるんじゃないか?」
ひとりの兵士が唐突にそう言った。
「だが魔獣だぜ?
もしそうだとしても信じるのか?」
「俺は信じる。
このままではどちらにしても先はない。
それなら、フェリア様が餌付けされていたあの魔獣に賭けてもいいんじゃないか?」
そう、彼らはもうしばらく水も摂っておらず、限界が近づいていた。
「よし、行こう」
彼らは最後の力を振り絞って立ち上がった。
さほど長い間歩いていたわけではないが、水分すらまともに摂っていなかった身体には堪える距離だ。だが彼らが十分に訓練を積んだ兵士だったためここまで保ったと言える。
「おい!あれはもしかして」
魔獣(【ぼくちゃん】)に誘導されて木々の間を進んできたその先、密林の隙間から光を反射する水面が見えた。
「水だ!水だ!!」
もつれる足を前に出し、必死に進もうとする兵士たちの中にはもうその場から動けないものもいる。
そんな兵士を、結果的には引き摺るような格好になるのだが、抱えて水場に運んだのは魔獣(【ぼくちゃん】)だった。




