『現在のダンジョン』
本来ダンジョン産の魔獣に自我などない。
だが【ぼくちゃん】はたった一匹の例外だった。
彼は自分の意思でオフェーリアたちに近づき、そして結果“餌付け”された。
さらに、自分は言葉を発することはできないが、ちゃんと話の内容も理解している。
「【ぼくちゃん】この階段を上がればすぐに外になるわ。
……あなたもいずれは外に出るかもしれない。でもそれは今じゃないの。
だからね、【ぼくちゃん】はここから上に行ったらダメだよ」
そう言ってオフェーリアは異空間収納からひと抱えもある大きな袋を取り出した。
「ここにはたくさん食べるものが入ってるの。
どこかに隠して、少しずつ食べてね」
【ぼくちゃん】が精一杯頷いて了承を伝えてくる。
オフェーリアは再会を約束してその場を離れた。
王と王妃が本島に戻ってからも、ダンジョン周りの整備とダンジョン本体の探索は行われていた。
そんななか、そのときも10人組のグループが第五層の密林の探索を行っていたのだが、ふとしたことから道を間違えて迷ってしまっていた。
最初は楽観視していた彼らだが、引き返したはずの第四層に向かう階段をも見失い、のっぴきならない状況に陥っていた。
「おい、あれは王妃様の獣じゃないか?」
食料はおろか水すらも切らしてしまって如何程経つだろう。
そんな時、彼らの前に現れたのが通称【王妃の獣、ぼくちゃん】である。
 




