『餌付け?』
ダンジョン内の魔獣は基本“湧き”の時以外は、自分が存在する階層から動くことはない。
それも下の階層に移動するなど本来あり得ないこと。
それが件の魔獣はオフェーリアたちを追って、あっさりと階層を越えて見せた。
そしてそれが2つ目の階層に及んだ時、オフェーリアたちは“彼”があとを追ってきているのを認めざるを得なかった。
「で?
これはいかにも気安すぎるんじゃないか?」
今夜は第六階層に入ってすぐのところに野営地を設置した。
階段を降りてすぐのそこは一応安全地帯に準じていて、そこに魔獣が近づいてきてもわざわざ襲いかかってくることはなく、例の魔獣も今夜は見るからにリラックスしている。
この頃になると護衛?の兵士たちも警戒度を落として対峙していた。
「ふうん……なつかれちゃった?」
「ああ、餌付けしたんだろう?」
「そんなつもりはなかったんだけど……」
オフェーリアとマティアスの目の前、透明な壁の向こうには、嬉しそうな魔獣がその壁に顔を押しつけている。
今は結界に阻まれて聞こえないが、ぐるぐると喉を鳴らして喜びを表していた。
「じゃあ今夜はこれね」
オフェーリアが結界を開けて“それら”を置くまで、魔獣は数歩下がって待っている。
今夜のメニューは狐色にこんがりと揚げられた、ロックバードのから揚げだ。
一応配慮して熱々ではないが、カリッとした食感と溢れ出す肉汁がたまらない、オフェーリアの得意料理だ。
それを大きな葉っぱの皿に山盛りして魔獣の前に置いてやった。
「はい、召し上がれ」




