『想い』
抱き上げられて居間に向かう。
そこはオフェーリアが初めて入る、竜人の文化に基づいた部屋だった。
天井から下がる垂れ布をかき分け、奥に向かうとそこには分厚い絨毯が敷かれ、大型のクッションが多数置かれている。
マティアスはそこに、オフェーリアを抱いたまま腰を下ろして胡座をかいた。
「さて、何か質問は?」
「……どうしてマティアスがその地位にいるのか、に関してはないかな。
あれからずいぶん経ったもの。お互いに色々あったとしても不思議じゃないわ」
オフェーリアはここに来る前に、竜人国の王座は世襲制ではないと聞いていた。
なので……そういうことなのだろうと思っていた。
「まあ、そっちは想像通りだ。
前王が退位することが発表されて勝ち抜き戦に出場したところ、あれよあれよという間にこうなった訳だ」
「それで?」
オフェーリアの目が据わっている。
「その地位と権力を使って、婚姻を申し込んだってこと?」
「……どうしても諦めきれなかった。
いつもいつも、思い出すのはあの楽しかった日々の事だ。
それがこんな立場になって、想いが溢れ出た」
「しょうがないわねぇ」
オフェーリアが輝くような笑みを浮かべる。
「奥さんになってあげるわ」
「俺はフェリアに謝らなければならない」
悦びに打ち震えていたマティアスが突然身体を離してそう言った。
一体何ごとかと身構えたが、それはマティアスの真面目さからくる謝罪だった。
「ダンジョンがあんな状況では予定していた婚姻式の後の披露目が出来ない。
本当にすまない」
至極当然な事にオフェーリアは拍子抜けしてしまう。
意気消沈しているマティアスの顔を覗き込んで笑顔を見せた。
「そんなの当たり前じゃない。
あの島の住人は生活の場を失ったのよ?
せめて、ちゃんと暮らしが成り立つようにしてあげないと。
……なので、ダンジョン内に突入よ!」




