『オフェーリアの戦略』
「フェリア様、どうして真のお姿を晒されたのですか?」
侯爵夫人たちの乗った馬車を見送ったジルがオフェーリアを店に押し込んで、怖い顔で尋ねてきた。
「これは戦略的なものよ。
こうして付加価値を上げて販売するの。
上には許可を得ているわ」
「でも危険ではありませんか?」
「むしろ、この姿を見せた方が安全でしょう。
だってこの町の住人すべての目がこちらに向くのよ?
これは見守られているのと同じじゃない?」
たしかに人攫いによる誘拐の危険性もあるが、オフェーリアは今日侯爵夫人の御用達となった。
そんなハイエルフを狙うものももちろん出てくるだろう。
だがオフェーリアは教官たちと話し合い、この結論に至ったのだ。
「メリット、デメリット、どちらもあり得るけどプラスの方が多いんじゃないかしら。
考えてもみて?
こんな小娘が富裕層に向けた商売をしている……そのやっかみの方が厄介だと思うわ。
でもこれが、ハイエルフが相手なら変わってくる。
何しろ私は魔法族の方たちと伝手があるわけだから」
たとえば砂糖だ。
砂糖など魔法族にとってはただの調味料に過ぎない。
先ほど侯爵夫人たちに出した薔薇の花を形取った花砂糖にしても、都なら少々気の効いた家になら珍しくもない。
その砂糖がここでも今日から取り引き可能になったのだ。
あの侯爵夫人が目端の利くものなら、明日、商業ギルドへの入金と前後して入手を申し出てくるだろう。
オフェーリアはそう睨んでいる。
「そうそう、ジルに頼みがあったのよ」
オフェーリアがジルに向かって、おいでおいでしている。
あまり良い予感がしないでもなかったが素直に近づくと、いきなり【洗浄】で化粧をとってしまった。
「え?」
「あなたには新商品のテストに付き合ってもらうわ。
魔法族の方々や私たちエルフにはまったく問題ないのだけど、あなたたちはどうかわからないのよね。
大丈夫、もしもの事があってもちゃんと治してあげるから」
ガシッとジルの腕を掴んだオフェーリアの力は、とても少女のものとは思えないほど力強かった。
そのことにジルは恐怖すら感じたのだ。
すっぴんのジルを帰したあと、オフェーリアは店に鍵を掛け、結界を張った。
そして2階に上がって、今度は寛ぐために紅茶を淹れた。今度はロイヤルミルクティー。
甘〜く作って、ふうふうしながら啜ると疲れがとれていく感じがする。