『先触れ』
まんじりとした夜(オフェーリアは熟睡した)が明けてしばし、一頭の飛竜が朝日を背にして現れた。
全身びっしりと汗をかいたその飛竜は、見るからに限界以上の力を出して飛んで来たようだ。
宮殿の中庭の地面に突っ込むようにして降りてきた飛竜から一人の兵士が下りてきた。
「報告!!
オサラ島の魔獣討伐部隊、被害甚大!
負傷者の第一陣が運ばれて参ります!!」
自身も腕の包帯に血を滲ませた兵士が、そう言うとその場に崩れ落ちる。
彼の後ろの飛竜も泡を吹いていた。
「大変!」
真っ先に飛び出したのはオフェーリアだ。
まだ宮殿には彼女の事を知らない者も多い。
たとえ知っていてもその姿を見るのは初めてのはずだ。
「ダルメリア!
救急キットをお願い!!」
倒れた青年に向かって駆け寄ったオフェーリアに続き奥向きの女傑ダルメリアが、どう見ても少女にしか見えないオフェーリアの命令に従う、その姿を見たものは驚愕する。
「傷は浅いわ、大丈夫。
リリ、彼にこのポーションを飲ませてあげて。
それからこの宮殿の医療の責任者は誰?」
「私でございます」
融通の効かなそうな老人が一歩前に出てきた。
しかし彼はオフェーリアが何者で、医を司るものである事を知っているので素直な態度をとる。
実際、竜人の国の医療は遅れていて、それは知識を持つものが少ないということでもあった。
「どこか広い場所を用意してちょうだい。
なければ庭にテントを張ってもいいわ。
それとおそらく避難民もやって来るだろうから彼らの住居もお願い」
それまで呆然としていた文官が動き出す。
オフェーリアは御殿医である老人、ウノスに近づいて言った。
「私はフェリア。
国王陛下の婚約者としてこちらに滞在しています。
元々の職種は薬師ですが医師も兼ねています。
竜人の治療は、以前マティアスという冒険者と共にダンジョン踏破をしてその時に体験しましたのであなたたちの身体の構造は熟知しています」
その場に居並ぶ何人かがマティアスの名を聞いて、わずかに表情を変えたのに気づかないオフェーリアだった。




