『鞍上』
2人乗りの鞍の前方に腰掛けたオフェーリアは、後ろにいるマティアスに抱き込まれているような状態だ。
「ねぇ、いくら昔馴染みとはいえ少し距離が近すぎるんじゃない?」
「ん?そうかな?」
絶対問題になる。
オフェーリアは少しでも身を離そうとするが、マティアスは反対に近づいてくる。
「えーと、これはあなたのために言うのだけど、必要以上に密着しない方がいいと思うの」
「必要以上に?」
「そうよ、変に誤解されたらあなたが困るでしょう?」
「困るかな?」
「困るに決まってるでしょ!」
「そんなこと考えなくてもいいと思う。
それよりももっとリラックスしないと保たないぞ」
そう、今は洋上であり島影ひとつ見えてこない。
これから嫁ぐ国は陽西大陸の諸島部と聞いていたが、これほど離れているとは思わなかったのだ。
地図は首都で手に入れようと思っていた。
「俺にもたれて楽にしていればいい……
俺たちはそれくらい許される仲だと思うがな」
「う、うん、わかった」
やけに威圧してくるマティアスに押されて、オフェーリアは素直に頷いていた。
「フェリアは海を渡るのは初めてか?」
「ええ、違う大陸に渡る時は転移陣を使うし、一度行ったところは転移できるから。
今回は【飛行】で行こうと思ってた」
「そりゃあずいぶん骨が折れただろうな。
いくらフェリアでも簡単には渡れなかっただろう」
今こうして飛竜に乗って飛んでいて、それは満更大袈裟ではないと思っていた。
何しろそれなりの時間飛んでいるのに島影ひとつ見えてこないとなれば、もしひとりで飛んでいれば不安にもなるだろう。
「日暮れまでには着くから心配するな」
背後からはじんわりと温もりが伝わってきた。




