『侯爵夫人のお買い物』
人族にとって魔法族とは特別な存在である。
そしてエルフはその下位種族として人々から知られている。
だが彼、彼女らは滅多に人と関わろうとせず、その姿を見ることさえ稀だ。
そのエルフ……ハイエルフが目の前で微笑んでいる。
アベンテェル侯爵夫人マーガレットは感動に打ち震えていた。
「侯爵夫人、こちらのティーセットは私の里の村長から譲られた、魔法族の都で作られたものですの」
透明感のある白地に色とりどりの花が描かれたティーカップ。
これほど美しい柄は見たことがない。侯爵夫人は驚くばかりだ。
そんななか、オフェーリアは優雅な手つきで紅茶を注ぎ、侯爵夫人の前に置く。
そして一緒に薔薇の花の形に成形された砂糖と、レモンのスライスを出した。
「これは都で流行っている飲み方です。
どうぞお砂糖を一個入れて、そののちこのスライスをくぐらせてお飲み下さい」
侯爵夫人だけでなくあとの2人も、弾かれたように花砂糖に手を伸ばした。
次に手のひらに乗るような小さなトングでレモンスライスを摘む。
オフェーリアに言われたように紅茶にくぐらせると銀のスプーンで軽くかき回した。
まずは侯爵夫人が一口、口をつける。
声にならない、感嘆の溜息が漏れた。
「フェリア様、素晴らしいですわ」
まず、砂糖は貴重品だ。
これは産地がこの大陸にないことに起因して、たとえ貴族であったとしてもそうそう手に入らない。まして花形に成形されたものなど、考えただけで気が遠くなりそうだ。
蜂蜜に代表される甘味は貴重で、あとは植物を由来するもの、果物ぐらいしかなかった。
「ご一緒に、お菓子もどうぞ」
サクサクのラングドシャはあっさりとした甘さだ。
3人の貴婦人は本来の目的を忘れてお茶会を楽しんでいた。
「あら、まあ。
すっかりお話に夢中になってしまったわ」
少女にしか見えないオフェーリアは思いの外話し上手で、貴婦人たちを飽きさせない。
「おほほ、私、もういただくものは決めておりますのよ」
「私も!」
「私もですわ」
貴婦人たちは仲良く揃って、チェストの上に飾りつけられた、護符のついたチョーカーを手に取った。
「こちら、オープン記念の目玉商品とお聞きしましたわ」
「今回は防御の魔法が付与してあります。
物理攻撃が一回に限って無効になる護符ですの」
「まあ!それは凄いですわ!」
ビロード張りの細長い箱に収まったチョーカーが貴婦人たちに渡され、彼女らは少女のように喜んでいる。
最後にオフェーリアは、サクラメント家での退屈な時間で嗜んだ刺繍の数々……ワンポイント刺繍入りのシルクのハンカチをお土産として手渡した。
もちろんこれも大喜びされたことは間違いない。