『難癖』
その日、いつものように調薬していたオフェーリアのもとに裕福な商人と思われる男が私兵を連れてやって来た。
瞬時に揉め事を危惧したオフェーリアは、薬を取りに来てその場にいた馴染みの女性にギルドまで走ってもらうことにする。
そして商人と対峙した。
「ここの主はおまえか?」
見た目でみくびっているのだろう。
上から目線の物言いだ。
「ええ、そうですが何か?」
そう言ったオフェーリアを上から下まで嘗めるような視線で見た男は突然大声を張り上げた。
「先日、ここで買った薬を飲んだうちの店のものが、容態が急変して死んだ。
人が死ぬような薬を売るなどけしからん!
なので儂が直々憲兵に突き出してやろうとやって来たのだ!」
オフェーリアはため息を吐きそうになったが、いらぬ理由を与えるだけになりそうなのでどうにか我慢した。
この手の輩はたまに来るのだが、今回は大掛かりなようだ。
「それで?
それが事実だと証明することができるのですか?」
「もちろんだ。これをみろ!」
男が懐から取り出したのはオフェーリアのところの薬袋だ。だが少々くたびれて見える。
「その薬袋は亡くなった方が飲んでいた薬が入っていたものなんですね?
今更ですが、その方のお名前は?
薬袋を見せて下さい」
本来ならば貴重な証拠品を被疑者に渡すなどあり得ないが、男には相当な自信があるのだろう。
私兵が横に付いたが素直に渡してよこした。
「ところでそちら……この町ではお見かけしない方ですわね。
バイショー在住の方ではないのかしら?」
オフェーリアは話しながらも薬袋の裏面、右下ののり付けのところにある番号を控えていた。
「そちらもよく見ておいて下さい。
ここにある番号は通し番号になっています。
○○○○、間違いないですわね?」
旗色が悪くなって来たのを感じたのだろう。
私兵がオフェーリアに飛びかかろうとしたのだが、触れることも出来ずに弾き飛ばされた。
「ここには無法者もやってくるのでね、防御魔法は常時かけてあります。
さて、この番号は……」
机の引き出しから出した台帳には薬袋番号1番からのカルテが閉じてある。
「それは5年前にある女性に処方されてる、吹き出物の治療薬……軟膏ですね。
亡くなった方は軟膏を飲まれたのですか?
ちなみに本来処方した女性は2年前に老衰で亡くなっています」
普段は優しげなオフェーリアの雰囲気が変わった。
「こういうのはよくあることですが、おそらく廃棄された薬袋を手に入れるなんて、手が込んでますわね。
……ぜひ、詳しいお話を聞かせていただきたいわぁ」
その黒い笑顔を見た商人は、恐怖のあまり失禁してしまった。
 




