『オープン』
そして、また3日後。
オフェーリアの雑貨屋【デラメントル】はオープンを迎えた。
店の造りはほとんどそのままで、今回は看板を掲げただけだ。
だがその看板が凄い。
それは魔法族の都でも有名な木工技師に製作を依頼した特別製だ。
次に店舗内だが、これは自分が特別扱いされるのを好む貴族階級や富裕層を客層のメインとするため、一組一組を完全予約制とし、その間は鍵を掛けてしまうことにした。
店の前に紋章のついた立派な馬車が止まり、3人の貴婦人が降り立った。
ジルは彼女たちを最上級のカーテシーで迎える。
「お待ちしておりました、アベンテェル侯爵夫人、エルベック伯爵夫人、ラーベンタール子爵夫人」
「今日は楽しい催しに招待してくれてありがとう」
アベンテェル侯爵夫人マーガレットはすこぶる機嫌の良い笑みをジルに返した。
「本当に、とても幸運でしたわ」
この度商業ギルドは、近辺の貴族家の女主人すべてに招待状を送った。
それに応えた序列順(エルベック伯爵夫人、ラーベンタール子爵夫人はアベンテェル侯爵夫人のお付きである)が招待の順番となっだのだが、彼女はそれがとても気に入ったらしい。
音もなく扉が開いてオフェーリアが姿を現した。
その瞬間、掲げられた看板に彫り込まれていた植物の蔓が伸び、みるみる蕾が形作られていく。
そして蕾が膨らみ、都では珍しくないラクシュミナの花が咲き誇った。
「ようこそいらっしゃいました。
私が店主のフェリア・デメンテラと申します」
優雅なカーテシーののち顔を上げたフェリアを見て、そこにいる皆が驚愕の声をあげる。
「エルフ?」
そう、オフェーリアは人型の偽装を解いてエルフの特徴である尖った耳を晒したのだ。
「はい、私はハイエルフです。
当店では私の里の商品も取り揃えておりますので、お楽しみいただけると思います」
「まあ!まあ、まあ、まあ!
フェリア様、そんなふうにかしこまらないで下さいませ。
本当に今日はご招待ありがとう。
さっそく中を見せて下さいな」
呆然としたまま動けないジルを残して、3人の貴婦人は店の中に入っていく。
「フェリア様?」
ジルはまだ、この状況が信じられずにいた。
「どうぞ、お掛け下さい」
フェリアの店はサロン形式で、出入りの商人が貴婦人に相応しい逸品を勧める……といった趣向である。
なのでそれほど広くない店舗の中では豪奢なソファーセットが存在を主張していて、お付きのためのスツールも用意されていた。
「ただいまお茶を淹れて参りますので、思い思いにお過ごし下さいませ」
フェリアの姿が奥に消えた瞬間3人は一斉に立ち上がって、さりげなく飾られた小物や、あの出窓にディスプレイされたミニチュアに見入っていた。