『勧誘』
ここ数日通っていても一切返事のなかった、一体何をしていたのか不思議な存在でもある、ジルの一族にとっては崇高なエンシェント・エルフ、フェリア嬢が2階の窓からひょっこり顔を出した。
すぐに家に入れてくれた彼女は、今日もさりげなく最高級品の布地を使った部屋着で身を包んでいる。
それはいわゆるシルクウールで、魔法を使って織られるため、殆どが魔法族の都周辺でしか作られていない。
ごく僅か、魔法族の血を引く一族が一子相伝の形を取って作成しているが、出来上がった反物は殆どが各国の王家に納められていると言ったものなのだ。
「ちょうどお茶にしようと思っていたの。一緒にいかが?」
自然体で誘ってくる彼女は今日も美しい。
本人は自分の容姿にまったく無頓着で、その美しさにも気づいていないようなのだが、エルフの特徴である耳を隠したとしても傾国級の美女であることは否めない。
その無頓着さは、都ではオフェーリアよりももっと美しい魔法族がゴロゴロしているからなのだが、ヒト族からは窺い知れないことだ。
ジルは紅茶と菓子でもてなされながら、それとなくこの元店舗であった部屋を見回した。
多少、少女趣味と言えなくもないがセンスの良さが表れていて、高級な家具、それに合ったファブリック類、さりげなく置かれた小物、そして外に見せびらかすように出窓に置かれた品々。
特に出窓の品々に関しては先日から商業ギルドに問い合わせが殺到していて、ジルが日参する原因となっていた。
「フェリア様、富裕層に絞った雑貨屋をなさいませんか?」
「雑貨屋?」
オフェーリアは目をぱちくりしている。
「はい、あの出窓にディスプレイされているような品を扱った雑貨屋です」
今日の出窓はオフェーリアのコレクション、精巧に作られたミニチュアの家具の数々だ。
「そう、ねぇ。
毎日は無理だけど、数日おきとか5日に一度くらいなら。
不定期、と言うことでどうかしら?」
よほど上司にせっつかれていたのだろうか。了承を得られてホッとしたジルは目に見えて雰囲気が柔らかくなった。
「ではギルドに行って、手続きをしましょうか。
着替えてくるので待っててちょうだい」
階段を上がっていくオフェーリアの華奢な足首がチラリと見えた。
その履いている室内履きも十分商品になりそうだとジルは思う。