『放棄』
この大陸=獣人の国の警察組織はおしなべて緩い。
特に暴力の絡まないもの……金銭絡みのものは被害者本人に加害者を裁く権利を与えられることがある。
そしてその加害者が子供だった場合、ほとんどが保護者との話し合いで解決され、もし保護者がいなかったりした場合はその子供の生殺与奪の権利を被害者側が握ることになる。
なのでこの場合、オフェーリアが言ったことはまんざら冗談ではないのだ。
「ポーション代が弁償できないならしょうがないじゃない。
……もう二度と私の目の前に現れないでちょうだい」
それは今すぐこの部屋から出て行けと言う事だ。
そして同じ馬車に乗ることは許さないと言う事。
憲兵によって足の縄だけ解かれたマリーを、今度は宿屋の主人と女将、そして2人連れの商人に加えて行商の男が取り囲む。
「この乗り合い馬車に乗ってさほど経たないが、商品がいくつか無くなっている。
それもすべてお前が近くにいた場合だ」
行商の男の、普段は凡庸な顔が怒りに引きつっている。
おそらく、もうその品々はこの宿にないだろうが、彼が扱うものでも高価な商品を盗られたのだ。
それも好意でマリーの面倒をみていた時のことだった。その怒りは相当なものだろう。
「我らは金を幾らか財布から抜かれた。
部屋に入れたのはこの親子しかいないので、確たる証拠はないがおそらく間違いないだろう」
なので2人連れはマリーの罪を告発しないと言う。
そしてこの場で彼女に用があるのは行商の男と宿屋の主人だ。
「私はこの子に関する、所有の権利を放棄します。
……大した値段は付かないでしょうけど、少しでも取り返して下さい」
それはマリーを奴隷として売れということだ。




