『アバズレ』
宿屋にやってきた憲兵は『子供のしでかした事だから穏便に』と言い残して、引き取りを拒否して帰っていった。
そんな状況になっているというのに姿を現さない母親に立腹し、宿の女将が部屋に突入したところもぬけの殻で、騒動がまたひとつ重なったのだ。
「なんて奴だ!!」
子供を置いて姿をくらませた女を罵る声がする。
オフェーリアは拘束されたままのマリーをみて眩暈がした。
隣で御者が毒づいている。
「金に困っているのは気づいていたがあの女、今日も出発出来ない、一体いつ雨が止むかわからない状況で宿泊料金を踏み倒して逃げたんだ」
オフェーリアは毎日朝食の後にその日の分を支払っていたが、彼女は出発のその日に一括払いを選んでいたようだ。
ちなみにここは一泊銀貨40枚、件の親子は一泊につき銀貨70枚で今までに金貨2枚と銀貨10枚支払わなければならない。
そしてまた今日の分が積み重なっていくのだ。
「大変だ!
馬が2頭盗まれているぞ!」
オフェーリアたちの乗り合い馬車ではなく、この宿屋に泊まっている別口の乗り合い馬車の御者が駆け込んできて、下の食堂で大声をあげている。
御者や冒険者たちと成り行きを見守っていた助手が素早く階段を駆け下りていって、それに御者が続いた。
「ねぇ、これって」
「ああ、おそらく……いや、確定だな」
あの母親は今朝方引っ張り込んだ“客”と、馬を奪って逃げたのだ。
当然お荷物は置いていかれる……それは今、オフェーリアの部屋で両手両足を縛られていた。
「こんなの、どこか途中の森で捨てちゃいましょう」
一切感情のこもらないオフェーリアの言葉に、マリー本人はともかくその場にいた皆が背筋を凍らせた。
 




