『新雪』
オフェーリアが落ち着く間もなく、ラバナラに冬がやってきた。
ある日、森のウッドハウスで迎えた朝、寒さに身を震わせながらドアを開けると、そこは一面の銀世界であった。
「ふぁ〜、真っ白ですごい!」
都では雪は降らないので、彼女が雪を初めて見たのはサクラメント家で生活するようになってからだが、こうしてその中に足を踏み出すのは初めてのことなのだ。
「冷たい……聞いていた通りなのね」
蹲み込んで手に取った雪は見る見る溶けて小さくなっていく。
オフェーリアは部屋の中に戻ってブーツを履いて来ると、毛皮のついた外套を着て手袋を嵌めながら雪の中に出ていった。
「あー、空気が冷たいー」
一度深呼吸して、河原に向かって走り出していく。
その川の表面は透明の氷が貼っていて、中の流れが見えている。
石を投げてみると簡単に割れた。
「残念、氷の上は歩けないみたい。
……みんな、何もかも真っ白できれいだけど、採取はし難そうね」
オフェーリアは冬の間も森の中で採取をしようとしていたのだが、これでは少し難しそうだ。
強いて言えば雪の中に咲くという、とても貴重な薬の素材となる雪割草の採取くらいだろう。
それは秋のうちに目星を付けておいた場所に行けば事足りる。
なのでわざわざこの森に住む必要はないわけだ。
「まあ、ここにも【転移】してくれば良いわけで……
雪が降り出したら町に戻ればいいわ」
そして今日は雪割草採取に時間を費やすことにして、オフェーリアはさらに重装備に着込んでいった。
帰りはラバナラの家に転移するつもりなので、ウッドハウスは異空間に収納してしまう。
そしてオフェーリアは雪面から10cmほど上を浮遊して、目的の場所を目指していった。
「あった!雪割草!」
何ヶ所も回って、夕方までにようやく見つけた雪割草は5株。
オフェーリアはホクホクしながらラバナラの家に転移していった。
「あー、やっぱり家の中は寒さがマシね」
すぐに魔導ストーブに火を入れ、風呂の支度をする。
そう、この家には風呂があるのだ。
このこともオフェーリアがこの家を選んだ要因だった。
魔導具を使って湯を沸かす、これは庶民の間では経済的に中々難しいことだ。
だが魔法が使えるオフェーリアには簡単なことだった。
「今日はどの入浴剤にしようかな〜」
魔法族独特のこだわりで入浴剤などは驚くほどたくさんの種類が販売されている。
これは女性上位な魔法族では当たり前のことなのだがヒト族では馴染まないことなのだろう。
ヒト族は現在、酷い男尊女卑が行われている。
オフェーリアも自身の婚約破棄はそういった背景があるのではないかと思っていた。