『楽しい時間』
結局、オフェーリアが契約したのは中通りにあるこぢんまりとした、以前は雑貨屋をしていた店舗付き住宅だった。
ここの大家は以前雑貨屋をしていた女性本人で、結婚を機に王都へ移住していったそうだ。
彼女は大きな商家の娘でこの店も小さいながらセンスの良い造りとなっていた。
2階の住居部分も最大限に魔導具などを使用して便利に出来ている。
これからの生活に色々参考になりそうな家だった。
そんな物件なのでそれなりの賃料だったが、元々金子に困っていないオフェーリアは気にしない。
保証金が金貨100枚、家賃が金貨10枚を4ヶ月分支払って今夜から入居することになった。
年相応に可愛いものが好きなオフェーリアは、早速布屋に行ってカーテン地を選びたくなりうずうずする。
そんなオフェーリアをジルは微笑ましく見ていた。
白地に薄ピンクの花柄の生地はオフェーリアの好みにぴったりだ。
ファブリック用としては少々高価だったが、ウッドハウスでのカーテンなども仕立てるつもりで反物ごと(約30m)購入し、それに合わせた生地も購入していく。
小さな頃から手先が器用だった彼女は目についた生地や手芸用の材料、編み物用の糸など存分に買い物を楽しませてもらった。
早速新居……この町での仮初めの住処だが、初めて自分で鍵を使って中に入った。
そして本来なら大変だろう掃除を【洗浄】の魔法ひとつで終わらせると、まずは作業台として少し大きめのダイニングテーブルを取り出した。
まずはカーテンから取り掛かる。
オフェーリアは自身こだわりの道具の入った裁縫箱を取り出し、そこから巻尺を手に取った。
窓の寸法を測り布を裁断して、あらかじめ熱していたコテで裾などを折っていき、オフェーリアが考案した魔導具で縫っていった。
これはいわゆるホッチキス(この物語の中では存在しません。実際にこのような形状の裁縫器具があったと思います)に似た形をしていて、カチャカチャと横に動かしながら縫っていくものだ。
これにより、縫製の時間が画期的に短くなった。
ここは店舗といってもショーウィンドウがあるわけではない。
通りに面して1mほどの出窓風の空間があるだけで、あとは普通の家と変わりなかった。
その出窓を飾るように、タックをたっぷりと取ったカーテンを左右に分けて、タッセルで止める。
ウッドハウスの方と違ってこちらの家は人に見られてもよいので張り切ってしまう。
オフェーリアは出窓にレース編みのドイリーを敷き、外から覗けるようにディスプレイしていく。
これからの季節にちなんで女性用の外出用の革手袋(手首や手の甲の部分に細かな装飾が施されている)や真っ白な雪兎の毛皮製の首巻き、得意のアクセサリーなどを並べた。
これは完全にオフェーリアの趣味で元々売るつもりはないのだが、後日ご婦人たちが押し寄せることになるとは、この時点では思ってもいなかった。
ちなみに、この店舗付き住宅はオフェーリアの結界魔法が掛けてあるので破壊不可である。