『ジルの一族』
アレックスたちと御者を先に帰して、オフェーリアはジルとの取り引きを始めた。
「フェリア様、もしお持ちならお願いしていた以上の数、お譲りいただきたいのですが」
「もちろんあります」
かなり薄まっているとはいえ、ジルは魔法族の血に連なる者。
もう無意味な隠し事はしない。
「旅の間でもこのくらいの魔導具ならいくらでも作れますし、今現在もまだ在庫はありますよ」
オフェーリアは朗らかな笑みを浮かべた。
それはアレックスたちには見せなかったものだ。
「では30個、お願いできますか?
まだまだ入手したいところですが、私に自由になる金子はこれが限度です」
ジルの顔が羞恥で赤く染まっている。
オフェーリアは見ぬふりをして結界石を取り出していく。
そして一緒にワンランク上の魔石も取り出した。
「フェリア様?」
「うふふ、たくさん買って下さるからサービスです。
魔石を替えておきますね」
専用の工具で魔石を取り出し、かわりに新しいものを入れる。
オフェーリアにとって30個などあっという間だ。
「これで魔力の持ちが倍になりました。
その分お高く売る事が出来ますよ」
「フェリア様、どうもありがとうございました」
ジルが深々と頭を下げた。
「そうだ、ジルさん。
私、まだ宿を取っていないので、どこかよいところを紹介してもらえませんか?」
オフェーリアの前でジルが目に見えて張り切りだした。
「フェリア様、ぜひ、ぜひ我が家にお出で下さい。
大したおもてなしは出来ませんが、都のお話を聞かせていただきたく思います」
ジルの様子はとても断れる状態ではない。
笑顔を強張らせながらも快く承知したオフェーリアはこの後待っている歓迎を想像だに出来なかった。
「エルフ様!」
「エンシェント・エルフ様っ!」
目の前に広がるのは、どこの宗教かと言いたくなるような状況だ。
あの後ジルは幾人かとやり取りし、シフトの交代をしてオフェーリアをともなって帰宅した。
そしてそこで待ち受けていたものに目を剥いたのだ。
「フェリア様、急ぎ集められるだけの親族たちに連絡しました。
皆、御伽噺のようにエルフ様のお話を聞いて育ってきた者たちばかりです」
ざっと見て20名ほど、まだ厨房に何名かいるらしい。
彼らは我も我もと自己紹介をし、群がってくる。
そのうち料理が運ばれてきて、宴会が始まった。
ジルの一族は400年ほど前に魔法族の女性と縁づいたようだ。
そして母方も約1000年前に魔法族の血を得たそうだがこちらは古すぎて詳しい事はわからないらしい。
そしてこの2家は細々とその能力を守ってきて、今はこの町の町長のような役目に着いているそうだ。
その母方の方はともかく、父方の400年前に縁づいた方はまだ存命ではないだろうかとオフェーリアは思っていた。