『ピピ』
ある夜、王都の冒険者ギルドではいつも通り弛緩した空気に包まれていた。
ゲルルートも御多分に漏れずカウンターの中で業務作業を行なっているふうを装って、現在読書中であった。
そんななか、扉が開いて誰かが入ってくる。
「こんばんは」
黒っぽいローブのフードを目深にかぶった小柄な姿に既視感を覚え、それが本人だと気づいて立ち上がった。
「おう、従魔の許可証はできているぜ。
こんなもの、何十年ぶりかで書庫をひっくり返してやっとだったぜ」
口ぶりの割には気分を害しているふうではなく、ひらひらと掌を動かしている。
「それとまあ、一応従魔の証って事で首輪も用意した。
何、魔導具ではない普通の首輪だ」
小さなピピに合わせた、オフェーリアの手首の太さもない首輪はどうやらトカゲの革のようで、本来はペットの子猫などのもののようだ。
「ありがとう。
少し失礼するわね」
オフェーリアはカウンターに仔鰐を下ろして、早速首に着けてやる。
「うん、よく似合うわ」
ライトグレーの肌に茜色がよく映える。
「おっ、別嬪さんにはピッタリだな」
そう言って触ろうとすると威嚇されて、思わず手を引っ込めたゲルルートだが、思わぬことを聞いた。
「別嬪さんって、ピピはおそらく男の子よ?」
「あ?オスって、ピピって名は?」
メスの名だろうが、と続けていた。
「ピピはピピって鳴くからピピと付けたの。
本当はまだ正確にはわからないのだけど、私の勘では男の子なの」
「ほう、そうなのか。
じゃあ赤い首輪は拙かったかな」
「いいえ、よく似合っているからいいと思うわ」
ちなみにピピの性別だが、のちに雌雄同体だった事が確認された。