『交渉』
「私の意向はなるべく叶える、という約定であると聞いています。
従魔登録も行っておりますし何が問題だと言うのですか?」
「いや、しかし。
魔獣を王宮内に置くわけにはいきません。
たとえ幼生でも何があるかわかり」
「お黙りなさい。
私が育てると言っているのです。
文句があると言うならここから出て行きますわ」
オフェーリアは今、王宮から派遣された文官と対峙している。
もちろんその腕の中には正式に【ピピ】という名になった仔鰐が抱かれている。
「大体ね、今の私の状況をどうお考え?
公爵家との正式な婚約も中途半端なまま放置されてしまっていて、少しくらい融通していただいてもバチは当たらないと思いますことよ」
この件に関しては文官も言い返す事ができない、頭の痛い問題だ。
強引に割り込んできた第4王子側に一歩も譲ろうとしない公爵家。
ただ公爵家側のデリケートな問題もあって、やや第4王子側が押し気味のようだ。
「いや、それは……」
「とりあえず、この迎賓館から出ていきましょう。
……従魔を連れていても滞在できる宿を探して下さい」
本当は普通の宿屋で良いのだが、今更ひとりで行動できるはずもない。
少なくともドーソンは付いてくるだろうし、最低限の護衛の騎士も然り。
ひょっとすると女官も何人か同行するかもしれない。
「面倒くさいから家でも買いましょうか。
良い出物があるといいのだけど」
「姫君!?
暫く、暫くお待ちを。
何卒、なるべく便宜を図ります故」
「そうねぇ、あなたの顔を立てて、あと数日待って差し上げるわ。
良い返事を待っています」
オフェーリアは悪い笑みを浮かべている。
使者として来ていた文官は這々の体で退出して行った。
「どこかに屋敷を構えるのも悪いアイデアではないわね」
どうせそれなりの期間この国にいるのだ。
その間は好きにさせてもらうとオフェーリアは決心していた。