『思惑』
途端に大騒ぎとなったオフェーリアの寝室。
女官たちの悲鳴に警護の騎士たちも集まってきて、この後どうしようかと途方に暮れてしまう。
無理もない。
普通の人は魔獣などには免疫がなく、まして貴婦人が突然目の前に魔獣を、それがたとえ幼生であっても驚愕して気絶ものだ。こうなることは必至であった。
「大丈夫。
この子は私の研究材料なのです。
悪さは致しませんわ」
女官たちの手によって運ばれていくドーソンには気の毒だったが、このくらいで倒れられてはオフェーリアに付き従うことはできない。
「あなたたちも下がって下さい。
この子は孵化したてでもう休ませてやらねばなりません。
危害を加えることがなければ大人しくしています」
そうはいわれても面妖な姿の魔獣を見ては、騎士たちも引くことができずにいる。
「わかりました。
この子はアトリエで休ませましょう。
なので私も今夜はアトリエに泊まることにします」
止める間もなくアトリエへと通じる扉を開けて、オフェーリアはそそくさと中に入っていった。
そして追いかけることのできない騎士や女官たちが取り残されていた。
迎賓館で、冒険者ギルドで、そして魔法族の都のアカデミーで、今日一日オフェーリアは各地で騒動を巻き起こしていた。
特に今現在オフェーリアと仔鰐が居るルバングル王国王都では顕著であった。
「なんと退屈させない姫君だろう」
滅多に笑わない第4王子が大声で笑っている。
オフェーリアが巻き起こした騒動は、本人が思った以上に衝撃が大きかったようだ。
だが、すでに異空間に引きこもってしまっていてはどうすることもできずに見守るしかない。
「ますます欲しくなった。
……いや、必ず手に入れる」
今まで水面下で行われてきていた折衝が、とうとう具体的に動こうとしていた。