『非常識』
「え?」
ギルドを出て、いつものように目につかない路地に入り、拠点であるウッドハウスに何も思うこともなく転移したオフェーリアは、見慣れた我が家を見た瞬間、驚愕の声をあげた。
「ええっ?!」
ローブのポケットをさぐり、その中で眠っていたはずの“ソレ”を取り出した。
「ピピ?」
薄目を開けて情けない声で鳴く。
それを見たオフェーリアはとるものもとりあえず家を飛び出した。
こういう時に向かうのは決まっている。
“婆様”と呼ばれる彼女は、おそらくこの都に住むものの中では最年長で、それに見合う知識を持ち合わせていた。
「こんにちは!」
町外れに設置されたウッドハウスからまたも転移して、老婆の営む雑貨店(気が向いた時にしか開店しない)の中に勝手に現れたオフェーリアは大声で主人を呼んだ。
「騒がしいのう……
誰かと思えばオフェーリアではないか。
お主は今、遠方に出向いておるのではなかったか?」
今までになかったことだが、一度約定による“義務”を果たした若人たちが再び招集され、新たな婚家に嫁いでいった。
現在一族で一番若いオフェーリアも、海を隔てた東亜大陸に向かったはずだ。
「ウッドハウスをこの都に置いていて、毎夜帰ってきてますよ。
あちらでは今、少し揉めていて正式な婚約もまだなのです」
「おや」
老婆は眉をひそめた。
「なので今は比較的自由に動いています。
今日もダンジョンに行っていたのですが、少し困ったというか、戸惑っているのです」
一体なんじゃ、と老婆の目が言っている。
「……コレです」
また昼寝を邪魔されて機嫌を損ねた仔鰐が、ぽおっと小指の爪ほどの火を吐いた。