『決別』
その場に誰もいないかのように、オフェーリアはダンジョンに向かって歩き始めた。
まさか断られるとは思っていなかったのだろう、少年は呆然としていたが気を取り直してオフェーリアに迫った。
「退きなさい。
もう二度は言わないわ。
関わらないでちょうだい」
少年の後ろでは少女が服を引っ張って止めている。
それに一瞬気を取られた少年を置き去りにして、オフェーリアはダンジョン入り口まで小走りで向かった。
「こんにちは」
ダンジョンの入り口の、非常時には閉じられる扉の前には見知った顔の兵士が2人、今日も暇そうに佇んでいる。
「おう、煩いのに付き纏われているようだな。
少し足止めしといてやるから、さっさと降りちまいな」
先日はあまり話さなかった方の兵士が真剣な表情で話しかけてくる。
片やもうひとりは速攻で手続きを終えてくれた。
「今日は先日よりもう少し深く潜るつもりです。
私は厄介ごとは御免なので、こちらで言い含めて下されば助かります」
3人は頷き合って、そしてオフェーリアは駆け出した。
身体強化を施した脚力はとても少年たちが追ってこれるものではない。さらに2階層からは【浮遊】と【風魔法】を使いラットを無視して進んでいった。
「あっ!ラビットだわ」
もう少しで激突しそうに前を横切っていったのはフローラビット。
このウサギはオフェーリアと同じように風魔法で浮いて移動している。
なのですばしっこいが大した攻撃手段を持たない弱小な魔獣だ。
だがその毛皮には価値があり、浅層に出現する魔獣としてはそれなりの高値で買い取られていた。
なので残飯漁りの少年たちは、オフェーリアがこのフローラビットを残していくのを期待していたのだが、世の中そんなに甘くない。