『ダンジョン行、浅層3 人それぞれ』
碧光苔はある特殊なポーション、視力を失った眼を回復させる患部限定のポーションを調薬するのに必要な素材である。
この苔はとても希少で、かなり高額で取り引きされていたのだが。
「それが普通の発光苔と同じように生息しているなんて……
これをあちらに持っていって量を限定して売れば大儲けできるじゃないの」
慎重にコテを使って壁面から剥ぎ取り、痛めないように保存袋に入れて異空間収納に入れていく。
これの繰り返しとたまに襲ってくる魔獣(六葉虫、いわゆる30cmほどのダンゴ虫)を屠りながら時間を忘れて心底ダンジョン行を楽しんでいた。
オフェーリアがダンジョンに入場してから遅れること小一刻、見た目はまだ少年少女といったところの2人組が例の手帳を見せて入場していった。
「あいつらもそろそろ考え時だと思うんだが……
命あっての物種だろうに」
入り口を守る兵士の1人が、独り言のように呟いた。
「3階層程度で限界だろう?
狩ってくる魔獣もそれなりだし、町で真面目に働いた方が身入りがいいと思うんだが」
それでも冒険者という職業にしがみつくものが一定量いる。
彼らは田舎から出てきた幼馴染みという、よくあるパターンだった。
「あいつらちゃんと食ってるのか?
また痩せたんじゃないのか」
彼らの装備は新人の頃と変わっておらずもうボロボロだ。
見たことはないが得物の剣も言わずもがな、だろう。
そんな彼らが分不相応なほどの“成果”を持って戻ってきたのを見て、兵士たちは眉を顰める。
彼らは何も聞かない。
だが2人のパンパンに膨らんだ背負い袋とぶら下がる複数のストーンラット。
それからありあわせのものを使って作ったのだろうソリに乗せられたサンドフォックス2匹を、重そうに引き摺っているところを見て兵士たちは確信した。