『弁解』
「あら、つい夢中になってしまったわ。
私、熱中すると時間の観念を忘れてしまうのよね」
うふふ、と笑って誤魔化すオフェーリアだったが、目の前のドーソンの態度は硬いままだ。
「私がアトリエに籠るのは契約で定められていてよ。
今回は……心配かけて悪かったわ」
「正直言って、もう戻って来られないかもしれないと思いました」
「それはないわね。
この婚姻は国家同士の約束だもの」
オフェーリアはドーソンの横を通り過ぎ、ソファーに向かった。
そして部屋の隅に控えている女官にお茶を注文する。
「……薬師の性と言うのかしら。
複雑な調薬を行なっていると、ついつい時を忘れてしまうのよ。
アムリタはともかく、ポーションの手持ちが減ったので量産していたの」
ダンジョンに行っていたなんて本当の事は口が裂けても言えない。
オフェーリアが自由に転移できるなどとしれたら、それこそ周りはパニックを起こすだろう。
「でもあなたと部屋付きの女官さんたちには迷惑をかけたわ。
なので、これは見本なのだけどお詫びの証に受け取ってちょうだい」
そう言って取り出したのは掌に収まるくらいの、小さな小瓶だ。
「これはダンジョン産のお花から作った香油なの。
3種類あるので、後で皆で分けてちょうだい」
テーブルの上に置かれた8本の小瓶を見て、ドーソンは部屋付き女官が7名いることに気づいていたオフェーリアに少し驚いて瞠目した。
彼女らの中には一卵性の双子の姉妹もいて、ドーソン自身も間違えることがあるのだ。
思いもよらぬ洞察力に意外性すら感じるドーソンだった。
実はこれ、種明かしをすると、女官を含めこの迎賓館で出会った使用人を【鑑定】した結果であった。