『祈りと願い』
すぐに後方の野営地に戻された団長は、馬車に乗せられ王都に帰還することになった。
ここでは従医による応急処置しかできず、団長(第4王子)の怪我の治療はあちらに戻ってからになるのだが、ブレスをまともに浴びた右半身はちぎれかけた腕を始め酷い状態だった。
「馬替え以外に休憩なしで王都まで丸一日、それまで殿下の命数が持つか否かは神のみぞ知る。
願わくばなにとぞ命だけは……」
馬車を見送る従医の言葉は虚しく響いた。
「今日は何か騒がしくなくて?」
ちゃんと朝食後にアトリエから戻ってきたオフェーリアが窓際に近づき、そっと外を伺った。
オフェーリアに与えられた中庭に面した部屋は、向かい側にある建物の前で繰り広げられる騒動が丸見えだった。
「何かあったようよ。
あそこは……騎士団の施設か何か?」
「はい、総本部がある建物ですが、珍しいですね」
この時はそれで興味自体収まったのだが、すぐに騒動に巻き込まれることになる。
「フェリア様、失礼します!」
乱暴とも言える仕草で開けられたドアから現れたのは、先日別れたばかりの第3騎士団団長だった。
「何事ですか」
僅かに怒りを含んだ声で対応したドーソンだが、同時に動揺も隠せない。
「申し訳ございません。
だが今は、何も聞かずにご同行願えませんか」
「あなたがそれほど狼狽えているということは、重大な事なのでしょう。
わかりました、参りましょう」
オフェーリアを先導する団長は、本人は気づいていないのだろうが、その顔色は蒼白だ。
「ねぇ、よければ何があったか、教えてもらえないかしら」
おっかなびっくり同行しているドーソンも同意して頷いている。
「フェリア様」
いきなり立ち止まった団長が跪いた。
「どうか殿下をお救い下さい」