『ダンジョンと冒険者』
「これは見事な金華狒々だ」
カウンターにドンと置かれた狒々……あちらの大陸ではベルベットモンキーと言う名で知られるものを見た爺が感嘆の声を上げた。
彼は早速その場で狒々の体を隅々まで観察し、そしてあることに気づいた。
「傷が見当たらない……」
「それは魔法で倒したの。
……全身の血は抜いてあるから、処理は簡略化されると思いますわ」
この時、本当に血の気が引いたのは鑑定士の爺だけだった。
この恐ろしさを、あとの2人は理解できていない。
「これはダンジョン産の魔獣ですわ。
毛皮くらいしか価値はないでしょうが、買い取ってもらえるかしら」
「ダンジョン……
フェリア殿が潜ってきたのか?」
信じられない、と言った様子でゲルルートは目の前の小柄な少女を見た。
「ええ、冬籠りがてらにダンジョン攻略をしたのです。
結局春どころか秋までかかったのですが攻略しましたのよ。
それよりも、こちらにもダンジョンはあるのかしら?
それから冬はどう過ごされるの?」
もうすっかり鑑定に夢中な爺は、オフェーリアの声は聞こえておらず、同僚の職員はギルドカード作成のため奥に行っているので、自然とゲルルートが答えることになる。
「ああ、ダンジョンはあるよ。
この王都の近くにも大迷宮と呼ばれるダンジョンがあるし、我が国にはあと3ヶ所ある。
おそらく、あちらの大陸と変わらないと思うが、ちょうどいいから説明するぞ。
冒険者にはSSからFまで等級があって、初めて登録したものはFから始める。ここまではいいか?」
「ええ、それは向こうでも同じよ」
「昇級は基本、討伐した魔獣の種類や数、依頼の達成数などによって決められている。
フェリア殿の今回の場合は、申し訳ないがあなたが狩ったという証拠がないので、反映できない。すまん」
「別に謝らなくてもいいわ。
私でもそうしたもの」
「物わかりがよくて助かるよ」
ごねて暴力沙汰など日常茶飯事なのだ。