『ハーフエルフ』
「私、こちらに到着したばかりで、宿舎は決まっているのですが金子の両替ができなくて。
なので手持ちの魔獣の素材を売却しようと思ったのです。
そうしないと、ここの登録料も払えません」
「事情は理解した。
ちょうど鑑定士の爺さんもいることだし、買い取りを受け付けよう。
それから東亜大陸の冒険者ギルドは最初の登録料を取らないんだ。
ただ失くした場合の再発行には金貨1枚いただくことになる」
これはこの東亜大陸にほとんど魔法士がいないということが理由になる。
所詮、物理攻撃しかできない冒険者は消耗品で、それなりの数を得たいギルドとしては一々登録料を取らないのだ。
「まあ、そうなのですか。
では焦って来る事はなかったかもしれませんね」
弾んだ声とともに、目深に被さっていたフードが下された。
今夜の擬装は目立たない栗色の髪に紫の瞳だ。
そしてハーフエルフとして人より長いが本来のエルフよりは短い、先端が尖った耳を人目に晒した。
「あんた……」
「ああ、ハーフエルフは珍しいですからね。
普通は人の姿で生まれてくる方が圧倒的に多いですもの」
「いや、ハーフも何もエルフを見たのは生まれて初めてだ」
「儂もだ」
もう一人も、折れんばかりに激しく頷いている。
「あら、そうなんですの?」
オフェーリアは少し意外だった。
「東亜大陸までわざわざ渡ってくる魔法士は珍しい。
フェリア嬢、あんたも気をつける事だ」
思わせぶりな言い方をしたのは鑑定士の爺だ。
「やっぱりここでも?
まったく……私たちが穏やかに暮らせるのは“都”しかないのね」
オフェーリアは慎重に髪の中に耳を隠した。
「う〜ん、フェリア殿はエルフでなくても目を惹くと思うぞ?」
「?
とにかく買い取りをお願いしたいです。
……最初はあまり大きくないものがいいかしら」
そう言って取り出したのは、見事な色艶の毛皮を持った狒々だった。




