『王都イシチの冒険者ギルド』
冒険者ギルドはその業務体系から、1日24刻営業が推奨されていて、特にこの王都のような大都市では夜中でも賑わうことが珍しくなかった。
この夜は珍しく酒を飲んで騒ぐ冒険者パーティーもなく、ギルドは深夜を迎えつつあった。
その時、ずらりと並んだ受付カウンターには男性職員が2人しかおらず、あとは奥で残業中の鑑定士(この大陸のギルドの場合、経験を積んだ鑑定士がその知識でもって鑑定する)がいるだけだった。
夜の間だけ付けるドアベルが鳴ったような気がして、読んでいた本から目を上げると、いつの間にかフードを目深に被った小柄な人物が目の前にいた。
「おお、びっくりしたー。
いらっしゃい、ここは初めてみたいだな」
ルバングル王国の冒険者ギルド、王都イシチの中央支部の中堅職員ゲルルートは気さくに声をかけてみた。
何しろこんな時間に見慣れない人物がここに来るなど、珍しいを通り越して奇異にすら感じる。
そして返ってきた応えにまた肝を潰す事になった。
「こんばんは、はじめまして。
今日は登録しにきたのだけど……
実は私、隣の大陸で冒険者をしていたの」
年若い少女の柔らかな声色にびっくりして立ち上がったゲルルートが見下ろすと、フードの奥の紫の瞳と視線が合った。
「そ、そうか。
向こうのギルドカードは持ってるかい?
出来たら見せて欲しいのだが」
気分を入れ替えて真面目に仕事をすることにする。
「わかりました」
濃いグレーのローブの袷の中にもぐった手に、次に現れた時は金色のカードがあった。
それが差し出したトレイに置かれゲルルートの元にやってきたのだが、はっきり言ってさっぱり読めない。
言語は問題なく通じているのにそれが文字となると別なようだ。
「これは……
申し訳ないが俺にはさっぱりわからない」
みみずがのたくった、とまでは言わないが、ゲルルートにとって未知の文字が並んでいる。
そして今このギルドで、これを読める者は1人しかいないと思い至る。
「悪い、奥に行って爺さんを呼んできてくれ」
退屈そうに2人のやり取りを見ていた、もう1人の職員が慌てて駆け出していった。