『イモムシ』
「お兄さんはこのあたりの冒険者ですか?」
「ギルドの所属ってことか?
ああ、そうだ。昨日この馬車が出発した町【フォドン】の所属だ。
それと俺の名はアレックス。パーティー【レッドフォックス】の戦士をしている」
「私はフェリアです。
えーっと、何だろう?」
オフェーリアは自分の事をどう言い表していいか、よくわからない。
そんな少女をアレックスは微笑ましく見ていた。
「で、何だい?」
「そうでした。
これなんですけど……」
リュックから取り出したのは立派な装丁の本と、ギルドで売っている冊子だ。
そのページをめくり、しおりの挟んであるところを指し示した。
「この魔獣の事を教えていただきたいのです。
このあたりではさほど珍しいものではなさそうですが、私の出身地では滅多に見ないものなのです。
そしてこれは錬金術で使う貴重な素材でもあります」
説明していた途中から熱心さが変わってきた。
それは百戦錬磨の冒険者をもたじたじとさせるものである。
「ああ、うん、何となくわかったよ。
それで?」
「この魔獣【ダルベリナピラプス】について教えて下さい」
オフェーリアは大真面目に言っているが、アレックスにとっては見慣れた、通称【イモムシ】である。
「こいつはこの見かけからあまり好まれていない奴だ。
素材としても大した値がつかないし……見かけてもわざわざ狩ったりしないな。
それにこいつって、こんなに大っきいんだぜ」
身長2mを超えるアレックスが両手を思いっきり広げて見せた。
そう、このイモムシは超特大のイモムシだった。
「なるほど、そんなに大きいのですか。
やはり地元の方に聞いてみないとわからないものですね。
ところでこのイモムシはそれなりに生息しているのですか?」
「森に入ったらいくらでもいるよ」
オフェーリアの心に炎が灯る。
次の町に到着後の予定が決まった瞬間だった。
その不気味な笑みにさすがのアレックスも引く。
「どうもありがとうございました。
このお礼と言っては何ですが、今夜のお食事をご馳走させて下さい。
もしよろしければパーティーの皆さんもご一緒にどうぞ」
「本当か?
喜んで馳走になるよ」
そのあとアレックスは護衛の任務に戻り、オフェーリアは読書を続けた。