『夕食後』
例の怪我人は意識を取り戻したが、オフェーリアの強い意見を聞いて、彼は彼のために張られたテントで横になっている。
増血剤を飲ませてはいるが、それも急激に効能を発揮するわけではない。
おそらく今は命を繋ぐためのギリギリの状態なはずで、オフェーリアが怖い顔をして諭していた。
「フェリア様は冒険者をなさっていたと仰ってましたが……」
“なさっていた”のではなくて、現在も進行形である。
オフェーリアは【転移】でいつでも戻ることができる。
なので、実は昨夜も都に行っていたのだが、そのことを知るのは誰もいない。
「ええ、あちらではA級冒険者でした。
冬籠り中にダンジョンに潜って冬を越して、春を迎え、夏も過ぎてようやく秋に攻略を済ませて戻って来たんです」
「ダンジョンを攻略なさったのですか?」
騎士団長もびっくりな発言である。
「ええ、もうついでだと思って。
中々楽しかったですよ」
そしてそれがたった2人で行われたと聞いて、騎士団長の顔が引きつっていた。
「その時の魔獣(の素材)を売って自分の自由になる金子を得るつもりでいます」
オフェーリアはかなりの資産を所有していたが、それはすべてあちらの大陸共通金貨である。
ほとんど交流のないこちら側で、さすがに両替は無理だろう。
なので手っ取り早い現金の調達として、ダンジョンの魔獣を売るつもりでいたのだ。
なお、この場にドーソンがいない事は僥倖だった。なぜなら彼女がこの話を聞けば、貴婦人は何たるかを懇々と話し続けるだろうからだ。
「とりあえず、今夜は結界があるので見張りは必要ありません。
しかし、言われてそうですか、というわけにはいかないでしょうから最小限の見張りを立てれば良いと思いますよ」
オフェーリアはにこやかだ。