『治療後』
「団長さん、少しよろしいかしら」
負傷した騎士の怪我がポーションによってきれいに治療され危機を脱したあと、オフェーリアはずっと進捗を見守っていた騎士団長に声をかけた。
「彼、怪我は治ったけれど血が足りてないの。
なのであまり動かしたくないのですが、今夜の宿の村まではどのくらいあるのかしら」
今、時刻は陽の傾きを見る限り、すでに真昼は過ぎて夕刻へと向かっている。
一行は元々行程が遅れ気味であったところに、森狼との戦闘にそれなりの時間を取られてしまったようだ。
「日没までにたどり着けないでしょう。
このままでは野営はやむを得ないかと」
「では、この場から少し移動して野営に相応しい場所を探して下さい。
……早々に移動を始めないと、血の臭いを嗅ぎつけて他の魔獣が寄ってきてしまうわ」
森狼は珍しくもない魔獣だが、換金できる部位はすでに採取済みのようだ。
「出来るだけここから離れたいですわ。
怪我人の彼に乗馬は無理ですので馬車に乗せて下さい」
オフェーリアの後ろでは、やっと馬車から出てくる事ができたドーソンが青い顔をして震えている。
本当に彼女には荒事が向かないようだ。
「駄目です、フェリア様」
弱々しく意見するドーソンをまるっと無視して、運ばれていく彼を横目で見、そして自身に【洗浄】をかけた。
「ではドーソンはこの場に留まりたいわけですの?
彼を動かせなければそうなりますよ?」
さらに顔を青くしたドーソンは必死でかぶりを振る。
そして渋々未だ意識のない騎士が馬車に運ばれていくのを黙認した。
「私も騎馬で参りましょう」
「フェリア様!おやめ下さい!!」
ドーソンが叫ぶが、元々貴族家の婦女子は乗馬が出来て当たり前だ。
今問題なのはオフェーリアが乗馬服を着ていない事くらいであろう。
「フェリア様〜」