『魔素と魔力』
恐れ慄き、馬車の中で縮こまるドーソンに対して、オフェーリアはガラス窓から外の様子を窺っていた。
「ドーソン、そんなに怯えないで。
念のため結界を張ったから馬車は大丈夫よ」
オフェーリアは馬を含めて、魔法で結界を張り外の戦いをジッと観察している。
「さすが騎士団と名乗るだけあるわね。
この程度の魔獣ならお手の物のようだわ」
今回、オフェーリア一行を襲ったのはこういう森林地帯では珍しくない森狼である。
それらは種の習性から群れで襲撃してきているが、オフェーリアの護衛の騎士団、総勢30名はそつなくこなしているようだ。
「うん、やはり彼らは魔力を持っていないのね」
オフェーリアがこの国にやって来てから接触したすべての人間を鑑定してきたが、ただの1人も魔力を持っているものはいなかった。
そしてこの大陸自体に魔素が存在しないのかとも思ったが、今騎士団が対峙している森狼からは魔素が感じられる。
「魔導具は普及しているのよね?」
突然まったく関係ない話題を振られて、ドーソンは戸惑ってしまうが何とか返事をする。
「はい、ただそれなりのお値段がするので、民すべてがその恩恵を受けているわけではありませんが」
「最低限の水と火の魔導具は?」
「どうでしょう……
私の実家の領地では、小さい村では村に最低ひとつはあったと思いますが」
そのように、井戸代わりに水の魔導具を使った水場を持つ村は、まだマシな方だ。
それすらなく、魔導具が製造される前に使っていた井戸と火打ち石しかない村の方が多かった。
「うーん、おそらく富裕層は向こうと変わらない生活をしているのでしょうけど、辺鄙な村などではそんなものなんでしょうね」
魔獣には魔力があって、世界も魔素に満ちている。だが人間にはそれがまったくない。
普通は魔力がなくても、その構成物に魔素が含まれているはずなのにだ。
『少し調べてみても面白そうね』
どうやらオフェーリアは退屈しのぎを見つけたようだ。