『見守る人々』
馬車に乗ってからオフェーリアはそっと姿変えの魔法を使って、耳だけは人のものに見えるようにした。
これで人前でもフードを外せる。
しかしオフェーリアは、自分の容貌が他者にどう思わせるか無頓着であった。
昼休憩で立ち寄った村で、オフェーリアが乗り合い馬車の旅が初めてだと聞いた御者のポールとその助手のサッカラは簡単なルールを教えてくれた。
例えば食事は個人が用意すること。
冒険者であれば夜番などをお願いすることもあること、など。
ちなみに今回は冒険者パーティーの6名が依頼で同乗しているため、乗客に夜番はないようだ。
夜はやはり個人が用意したテントや寝袋などで寝る。これが女性のひとり旅や雨の時は馬車の中で寝ることもあるらしい。
オフェーリアの場合、魔法族の都で用意してもらった荷物の中に魔導具であるテントがあったので、一晩目からひとりでゆっくりと眠ることが出来た。
何しろ結界に守られた、家具(ベッド、テーブル、椅子)付きのテントである。オフェーリアの許可がない限り誰も入ることは出来ないのだ。
ポールやサッカラにとってオフェーリアは危なっかしくて見ていられない存在だ。
その見た目は子供にしか見えないが、どうやら成人に近い年齢のようだ。
身につけているものも、身の回りのものも庶民の持ち物ではない。
だが本人にはその意識がなく、ポールは冷や冷やしながら見守っていた。
そしてオフェーリアはアイテムバッグを持っていた。
荷物が少ないはずだ。
何しろ食べ物のほかにテントまで収納していたのだから。
「サッカラ、昨夜は不届き者は?」
「様子を伺っていたのはいましたよ。
でもあの、アレって魔導具ですよね?」
所有者が中に入ると結界が作動する、だが外からのノックなどには反応するようだ。とてもよく出来ている。
最初の夜が明けて、少し硬さが取れてきたオフェーリアは周りの乗客や護衛の冒険者に意識を向けることができるようになったようだ。
初日はどうしても警戒の方が先立ってしまって、御者とその助手以外は接触を拒んでいるように見えた。だが2日目はまずは護衛の冒険者と交流を始めたのだ。
「あの……」
おずおずと、上目遣いに見上げてくる、本人にはまったくそういうつもりはないのだろうが、普段女性との接触の少ない冒険者にはやはりクるものがある。
「ん?何だい、お嬢ちゃん」
「冒険者さん、ですよね?
少し質問させていただきたいことがあるのです」
「俺でわかることなら」
女の子に頼られていい気にならない男はいない。