『侍女長』
馬車のなか、オフェーリアはぼんやりとこれからの事を考えていた。
考えてもしょうがないが考え込んでいた。
「……憂鬱」
小声でぼそりと呟いたオフェーリアは、マザーとの約束を思い出し、自重することを放棄している。
そう、オフェーリアは次期公爵夫人として、この王国の女性として4番目の地位に就こうとしていた。
「姫君、到着致します」
馬車の窓がコンコンとノックされ、騎士団長が声をかけてくる。
そして馬車の速度が落ち、続いて馬を制する声がして馬車が止まった。
「わかりました」
ほんの一刻ほどの馬車の旅だったが、すっかり退屈している。
このようなことでは明日からが思いやられてしまう。
「どうぞお気をつけて」
ドアが開いて足台が引き出される。
そして恭しく差し出された手はオフェーリアを待っていて、彼女は渋々その手に自らの手を預けた。
騎士団長によってエスコートされ宿の玄関に向かうと、左右に控えていた従者が扉を開ける。
このあたりが高級宿の特徴と言うべきか。
深く腰を折った従者の間をゆっくりと歩んで建物の中に入っていった。
そこで待ち受けていたのは30代後半の女性がひとり。
完璧なカーテシーでオフェーリアを出迎えた彼女は、騎士団長の説明では、これからオフェーリア付きの侍女なのだそうだ。
「お初にお目にかかります。
王宮から姫君のお世話に参りました、ドーソンと申します」
本来は自分より上位の存在に対して声をかけるなどあり得ないが、オフェーリアに対してはまず自己紹介をせねば何も始まらない。